大槻あかねさんの仕事には無垢なまなざしが捉えた、
物そのものとの出会いの、つつましい喜びを感じます。
『あ』はそれをきわめてシンプルに表した絵本です。
主人公の「そのひと」は食パンと出会って、
大きなあったかいものの後ろで安心したくなって後ろにまわって行ったのに、
一片が倒れてしまった、突然光にさらされて、きゃっびっくり。
そんなおかしみが体中に伝わってくる。
子どもたちが初めて物と出会うとき、
それが「何と呼ばれているか、どんな機能を持つ物か」などを知識として知る前に、
物そのものの質感にぐうんと惹きつけられて体が動く。
椅子の家によじ登ったり、ふとんの海で泳いだり。
そんな原初の「出会い」が小さな「そのひと」の登場でみごとに鮮やかに描かれました。
目をきれいな水で洗われるようなこの世界に親子でたっぷり浸って楽しんでいただけると嬉しいです。

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