玄光社「わたしの好きな絵本」

 

●「あおくん と きいろちゃん」レオ・レオーニ(至光社)

そぎおとされた色やかたちの中に、
「存在」や「感情」を感じとっていました。
どんなに描きこまれた世界よりも生き生きとして。

幼い頃からずっとうまくしゃべれないわたしは
この本と言葉じゃない会話をすることで
「出会う」ということのよろこびを
知っていったのかもしれない。

そのひとりきりの時間は
日々のささやかなものとの出会いや、
こころ通じ合うものとの出会いのよろこび
ゆえの世界のかがやきを いま、わたしにもたらしてくれている。

 

●「ぬすまれた月」和田誠(ポニーブックス/岩崎書店)

自分のインスタレーションに頻繁に登場する「はしご」は、この本の記憶から。
「月にとどくほどのはしご」の、果てしなく潔くうつくしい、
漠然といだいた想像は 20年を経てかたちになる。

すぐに結果の出るものばかりが注目されることの多い中で
ことばにもならずひっそりとひとりの人のこころの中に在り続ける作をわたしも、とどけたい。

 

●「あけるな」谷川俊太郎/安野光雅(銀河社)

冒頭のリズム。
予期せぬ展開。
言葉にならない余韻。
ひさしぶりに読み返した今も、
くりかえしみていた幼いころも、
かわらず すこしぞっとするような何か。

言葉と絵の距離感が、
あちらこちらに空白をつくりだし
そこではどこまでも行ける空想がゆるされている。

 

●「ゴールディーのお人形」M.B.ゴフスタイン作/末盛千枝子訳(すえもりブックス)

ゴールディーの人形をつくることへの姿勢。
うつくしさへの 敬意、生きる中でのその価値。
それらを人にわかってもらえないときのさみしさ。
どれもが憶えのあるもので涙が出そうになる。

1つのランプを通して、それをつくった遠く会ったこともない人とつながる。
「どこかの誰かが、きっと気に入ってくれると信じて、一生懸命作った」とその人は言う。
ゴールディーもそうやってつくっている。
わたしもそうやってつくっている。

 

●「やっぱりおおかみ」ささきまき(福音館書店)

孤独感、世の中での自分の異物感をいだいて、生きている。
「おれに にたこは いないかな」とさがしている。
まるで自分のようだと思って読んでいると
ラストにしずかな衝撃が走る。
すべてを受け入れたとき。

その、おおかみの「ゆかいな きもち」は
自分が何かをつくったときと似ているかもしれない。

 

●「詩人の墓」谷川俊太郎/太田大八(集英社)

「なにもかもあなたを通りすぎて行くだけ」と娘に言われ
男のからだは透き通って向こうに景色が見えてくるところで、ふるえが走る。
自分がここ数年かけて取り組んで描こうとしている何かが、ここにある。

言葉と絵の距離感。色のかさなりや絵の具のかすれに、こころのざわつきが共鳴する。

(2015年)