『あおくんときいろちゃんとあかねいろちゃん』

わたしは幼い頃から頭の中に全く言葉が無かった 何かを聞かれたら首を縦か横に振るしかなく、何も言えないからいじめられた 誰にも気づかれないように教室の隅で絵を描いていた ある時気づくと女の子がその絵を見ていた 黙って描く、黙って見ているだけ でもそこでは初めて何かゆるされているような気がした 自分はここに居てもいいのだと 今、思い返すと きっと


記憶のある時から『あおくんときいろちゃん』をいつも見ていた ひとりで、じっと、黙々と 言葉はほとんど読まなかった 削ぎ落とされた色と形 それだけでもうそこに居るかのようなたたずまいを感じた 彼らの気持ちが、今どこで何をしてるのか どんなに描写された表現よりも生き生きと感じられた あおくんときいろちゃんが出会ってうれしくて緑になる そんな「出会いのよころび」をこの本から知った 緑になった自分のことを家族も誰もわからない 「誰にもわかってもらえないさみしさ」をこの本と分かち合った かなしくてぜんぶ涙になったら、気づいてもらえるのかな

大学生になったわたしは堰を切ったようにものを創った 何かを創らずにはおれない焦燥感に駆られ皆が遊んでいる時も休みの日も創った それは“誰にもわかってもらえないあおくんときいろちゃんの涙”だったのかもしれない おもしろいと思われ友達になった 創ったものを観た人とは話すことができた その頃から今もずっと、そうやって人とつながってきた さまざまな出会いが訪れた 人、動物、物、場、かたちのないもの、日々のささやかなものやこころ通じ合うものとの出会い そこで見つけたまだ誰も知らないそのかがやきを届けたいけれど、どうしたらいいのだろうか…… こぼれ落ちる涙のようにわたしは何かを創り 誰かが気づく そこに在る、あかねいろちゃんに

光は赤、緑、青が混ざると最もまぶしい白になる いつかあかねいろと何かが出会ったときの、最もまぶしいその瞬間だけを信じて生きている
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「こどものとも0.1.2.(福音館書店)2018年1月号」の中の冊子にある“ウチのとっておき絵本”掲載